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認知症患者さまに寄り添い、ともに生きられる社会を目指すために

地域のみなさまの健康を守るため日々診療にあたるかたわら、厚生労働省のモデル事業として2004年に「千種区認知症地域連携の会」をスタートさせた黒川 豊院長。現在はボランティアとして他職種との連携を図りながら、認知症の方やそのご家族のサポートをおこなっています。活動の内容や活動にかける思いを詳しくお伺いしました。

千種区認知症地域連携の会では、どのような活動をしていますか?

市民向けの講習会やシンポジウム、ケアマネジャーやヘルパーといった介護職向けの専門職講習会・勉強会、認知症啓発パンフレットの作成、認知症患者のご家族や専門職の方を対象にした相談会などをおこなっています。

厚生労働省は、2025年には認知症患者が700万人を超えるという推計を出しています。これは65歳以上の高齢者のうち、約5人に1人が認知症患者となる計算です。

今後、認知症はますます身近な病気になってきます。それに対処するために、ご家族、まわりの方、専門職の方に正しく理解してもらいたいと考えており、啓蒙活動を中心におこなっています。「認知症の方がまだまわりにはいない」というみなさまにも、広く知ってもらえたらと考えています。

先生が認知症でとくに知ってもらいたいのはどんなことですか?

認知症というと、もの忘れのイメージが強いかもしれませんが、原因によって症状や対処法も異なります。まず簡単ではありますが、認知症の種類を知っていただけたらと思います。

日本で特に多いのは「アルツハイマー型認知症」で、記憶にかかわる海馬という脳の部分が萎縮してしまうため、初期は新しい出来事を記憶できなくなる症状が目立ちます。「さっき食事をした」、「昨日電話をした」など、最近のことを忘れてしまうのですが、古い記憶はよく覚えていらっしゃいます。

「血管性認知症」は、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などが原因で起こる認知症です。これらの病気を発症してから、1カ月ほど時間がたってから認知機能障害があらわれます。脳の異常が起きた場所によって症状は異なりますが、具体的には、もの忘れのほか、言葉が出てこなくなる失語、目の障害がないのにものが認識できない失認などがあります。

「レビー小体型認知症」は、レビー小体というたんぱく質が脳に蓄積してしまう認知症で、パーキンソン病、自律神経失調症などを併発しやすい傾向にあります。この病気の特徴は、後頭葉に障害が起きるため、幻視が起きます。その幻視は見たものをことこまかに説明できるくらい、とてもリアルなものです。もの忘れはレビー小体認知症ではあまり目立たない症状で、記憶力はあることがほとんどです。

認知症という言葉は広く知られていても、こうした細かな知識はまだ理解されていないのが現状です。そのため、認知症とは思わずに治療を受けていないケースも多くあります。身近な方でこうした症状に心当たりがあれば、一度受診していただけたらと思います。

講演会ではどのようなお話をされていますか?

私は認知症を誤解なく知ってもらうために、先に挙げた認知症の種類といった基本的なことを中心に、具体例を交えながら広くお話ししています。

認知症の知識を取り入れることも大切ですが、私は認知症の方を「理解すること」の重要性も講演会でお伝えするようにしています。病気だからといって認知症の患者さまを区別するのではなく、ご家族やご友人のように、人として付き合うことには変わりはありません。足の速い人もいれば、遅い人もいます。それと同じように特徴のひとつと考えていただければと思います。もしまわりに認知症の方がいたら、一人の人間としてその方の気持ちに寄り添うことで、どう対処すべきかがおのずとわかってくると思うのです。

講演会はどんな方を対象にされていますか?

どなたでも大歓迎ですが、とくに認知症の方が身近にいるご家族の方にお越しいただきたいですね。

たとえばお母さんが認知症になったとき、言い合いになったり、あたってしまったり、ご家族、とくに娘さんは精神的にダメージを受けることが多く、顔がこわばってしまいがちです。一方で、認知症の方は難しい言葉がわからないので、その人の雰囲気で、敵か味方か捉えようとします。怖い顔をしている相手には、認知症患者さんも敵視してしまい、スムーズにコミュニケーションが取れず、悪循環に陥ってしまいます。

こうした背景を知ることで、ご家族の負担は変わってきます。介護で忙しいかもしれませんが、お時間があるときにお立ち寄りいただければと思います。

また、一部の講演会で私はキャラバン・メイトとしての役割も担っていますので、専門職の方、これから専門職を目指している方にも参考になるかと思います。

キャラバン・メイトとは、認知症サポーターを養成する講師役のことを指します。養成講座を受講された方には、「オレンジリング」というブレスレットを差し上げています。これは「私は認知症の方をサポートできます」という目印です。目の見えない方のために点字があるように、オレンジリングを付けてくださっている人が増え、社会全体で認知症の方をサポートする体制が整えることを願っています。

先生が大切にしている言葉はありますか?

「情けは人の為ならず」という言葉には、だれかに親切にするのはその人のためではなく、まわりまわって自分がいつか助けられるという意味があります。

だれかの介護をするか、自分がしてもらうかはわかりませんが、今後認知症にかかわる方はますます増えてくるでしょう。認知症のことをみなさまに知ってもらうことは、いずれ自分が世話をするとき、されるときにも、きっと役に立つから、いましっかり活動をしようというのが「千種区認知症地域連携の会」の思いです。

自分や身近な方が認知症になったとしても幸せに暮らしていけるように、きちんと知識をつけて準備をし、ひいては私たちの取り組みが社会全体の幸せにつながることを目指して、これからも活動を続けていきたいと思います。